読書な毎日(217)

【宰相A】 田中 慎弥
 作家Tが迷いこんだ日本は日本人が旧日本人と呼ばれゲットーに押し込まれ白人(アングロサクソン)に支配される国だった。ここは本当に日本なのだろうか。Aが安倍総理を指しているのではと話題になり一時期Amazonなど品切れになっていた小説です。
 この著者の本ははじめて読みましたがまず文章が読みづらく、説明的すぎ。発想は面白いですが作品に奥行きがなく表現が汚い。つまり私は本作気に入らなかったということです(^^; 確かにこのAは安倍総理でこんだけキモク描写していいのか!?というぐらいですが全体的に表現が汚いのでゲテモノっぽいんだよね。まるでB級ホラー。センターオブナチスみたいだ。
 作者は芥川賞とってるそうですがこのレベルで!?とちょっと驚いた。大学生がはじめて小説書いたのかというぐらいたどたどしい感じなんですが。日本の作家レベルは落ちてるのかな...。
 ストーリー的には他の勢力に支配される日本人が反乱しようとするがあっさり鎮圧され拷問されその記憶も消されてしまうというジョージオーウェルの1984のパクリっぽい感じなのですがその焼き直しにしても恥ずかしいぐらいショボイ感じなんだよね。やたらゴッドファーザーのイメージが挿入されるのもウザイ。主人公が作家というのもなんで?著者が主役なの?
 こんなに人にはあまりすすめられない本というのも珍しい...。まあでも勇気を持ってこの題材で書いたのだろうから★1つプラスしておこう。
(★★)

【台湾民主化のかたち】 浅野 和生
 台湾旅行の予習で読んだ本。台湾は日本から近く日本との結びつきも強い国!?だが、今まできちんと調べたことがなく本著読んだおかげでクリアになった。もっと早く知っておけば良かったな。
 台湾のなりたちは日本との日中戦争までさかのぼります。一時は中国の広い地域を支配していた日本だったが、米国の参戦により戦況は次第に悪化しついに敗戦撤退するが、中国では蒋介石率いる国民党と毛沢東率いる共産党軍による内線が勃発。抗日戦で消耗していた国民党軍は敗走を続け、ついには台湾まで追い込まれる。そのときに国宝を持っている側こそ正当な中国の継承者であるということで蒋介石はそれらを台湾に運んだ。それが今台湾の故宮博物院にある白菜とか角煮なんですね。我こそは正当な中国であるという中華民国は台湾で反転攻勢の機会をうかがっている状態が一応まだ続いている!のです。台湾は孫文の辛亥革命の起こった1912年を元年とする中華民国歴を使っています。2015年は中華民国104年!
 とはいえ世界的には次第に中華人民共和国の方を正当な中国と認めていきます。日本も中華人民共和国を中国としながらも台湾とも関係を保っています。当の台湾だって今や中国が台湾の工場であり、台湾が最大の貿易相手です。タテマエ上は我こそが正当な中国なんですが、中国に攻め込むなんてことはありえない状況。米国はずっと台湾サイドでしたが、冷戦構造のなくなった後は中国とも良好な関係を結んでいます。台湾の立場は無くなったようにも見えますが、この間に工業国として世界で有数の地位を築いていった。Acer Asus や apple製品の中身をつくっているfoxconnも台湾企業。今や台湾なくして世界のITは回らない状況になっているのだ。
 前述の通り、中華民国は一時的に台湾に退避し元の中国を取り戻すつもりだったので中国各地の議員の選挙は凍結されなんと50年もそのままだった。しかし議員は高齢化、既得権益化してしまったのでこれを改め1996年にはじめて普通選挙が行われた。そんなこととは全く知らなく驚いた。このような状況だったので台湾は国民党の一党支配の状況が長く続いていたが、野党の民進党が陳水扁が総統となり政権をとったのが2000年。その民進党も陳水扁周辺の金銭的スキャンダルで支持を落とし再び野党になる。陳水扁本人も逮捕されてしまう。この一連のスキャンダルは政治的なものが感じられる。日本の民主党もこの流れに似ている感じがするが台湾の方がドラスティックだね。
 私らが台湾に旅行したときにちょうどこの陳水扁の自宅療養を求めるハンガーストライキをやっているところだった。本著には陳水扁が牢屋にいることまでは書いてなかったので日本に帰って調べて驚いた。
 現在は国民党の馬英九が総統だがこの人は人気ないようで近くまた政権交代があるだろう。日本もそうなってほしいね....。ちなみに台湾は日本とは違い投票率が8割ぐらいで選挙も国民あげてのお祭りのようになるそうだ。一度その様子もみてみたい。
 本著はこういった類の本としては読みやすく簡潔でおすすめです。一読で台湾の歴史の流れがわかります。
(★★★★)

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読書な毎日(216)

【ぼくは戦争が大嫌い】 やなせ たかし
 彼の没後に出版された、やなせのおそらく最後の本。やなせがアンパンマンを書いたのはひもじかった戦争体験が原点になっているというのは有名な話ですが、やなせ自身の戦争体験については意外にもこうやって一冊の本にまとまってはいなかったそうです。なぜなら、やなせが自身の戦争体験を語りたくなかったから。けれど彼も死期を感じたのか”今語っておかねば”と思いこの本になったのです。
 やなせは昭和15年に軍隊に徴兵で招集される。除隊間近のところで日米開戦。戦争末期に中国に派兵され実戦も経験しています。ほとんど戦闘は無く使い物にならない大砲を移動していただけと書いてますが同じ部隊で死者も出ているのでそれなりに大変だったのでしょう。これはやなせの性格なのでしょうが、大変なことでもそれほどたいしたことないとポジティブに捉えています。戦地においても自分の絵の才能をいかして紙芝居やったり演劇やったり、現地民と交流したり。水木しげるもそうでしたが、クソマジメに兵隊をやってしまうのではなく任務はそこそこに、それ以外にも楽しみをというスタンスが生き残りそしてその後も成功し長寿をまっとうしたという秘訣なのでしょう。
 彼の弟は謙遜でしょうが自分に比べて優秀で士官学校に入りそして戦死したそうです。しかし、弟の遺品は何も帰ってこなかったそうな。これこそ戦争のむごさですね。
 タイトルの通り、やなせは戦争はまっぴらゴメンです。彼に限らず戦争好きのアーティストなんていないよね。そんな彼ですが南京虐殺に関しては”なかったと信じている”というスタンスです。なぜかと言えば、彼が南京に行ったとき現地は平穏で日本兵も歓迎されたとのことなのです。もちろんその体験からの発言でしょうが、なんでわざわざこのセンシティブな問題で主張しているのかな、とここだけ不思議な感じがした。つまりは大規模な戦闘や虐殺があったとしても数年もすれば何事もなかったようになってしまうもの、ということなのでしょうが。
 やなせは大戦の末期は暗号班にいて、日本の戦況がわかる立場にいたそうです。新型爆弾(原爆)が投下されたことも知っていました。戦争の怖さを情報戦の面でも知っていた人ということなります。本著が彼の遺作となってしまったのがちょっと残念です。映画のアンパンマンの最近作には政治的メッセージも込められていました。もっともっとアンパンマンつくって欲しかったがいつまでもやなせ先生に頼ってられないよね。残った私たちが再び戦争の世界にならないようにしなくてはいけない。
(★★★☆)

【”核”を求めた日本 被爆国の知られざる真実】 「NHKスペシャル」取材班
 NHKスペシャルの書籍化。日本が核兵器を持つ道を画策していたという驚くべき内容。日本が原発に今だにこだわる理由はエネルギーではなく核兵器であるということが露に。震災前の2010年10月の放映だが気がつかなかった。
 被爆国家日本は非核三原則を表向きはずっと堅持していたように見えますが、裏では日本が核兵器を持つにはどのような技術が必要でどれぐらいの期間があれば開発できるかという研究をしていたのです。これは亡くなる前の村田良平 元外務事務次官が暴露したことで事実でしょう。
 米国は日本に核兵器を持たせたくないと考えていました。基本は自分たち以外これ以上どの国も持たせないというスタンスです。そこで日本は同じ敗戦国 当時の西ドイツと核武装について日本側から持ちかけて密談していた。日本と西ドイツが連携して核兵器を持つ方策はないかと。西ドイツ側はこれを聞いて日本がそんなことを考えていたのか、と非常に驚いたとのことです。これは1969年の話ですが、今だにこの流れが生きているからもんじゅでプルトニウム抽出にこだわり、気象衛星を打ち上げるロケット技術にも力を入れているのです。北朝鮮の人工衛星打ち上げを”事実上の核ミサイル”みたいな言い方をするのも日本がそのつもりでやってるからなんですね(^^; だから格下と思っている中国が核兵器を持ち北朝鮮が核実験なんかするから悔しくて仕方ないという構図なんだ...。
 311前は核兵器と原発を結びつけることはかなりのタブーでした。それは脱原発界隈でもそうで、異端児として見られました。しかし、原発事故があれだけの被害を日本に及ぼしたことによりその圧力は消えたようです。けれど、逆に安倍晋三のような核兵器を持ちたい人たちが”日本も核を持てる!”みたいなことを平気で言うようになっています。
 また、日本の国際社会においての核兵器に対するスタンスについても本著は調べています。日本は常に核廃絶や核軍縮に反対していたのかと私も勝手に思っていたのですがそうではありませんでした。むしろ非核三原則宣言以降急激に落ち込み、賛成率は約半分だというのです。賛成しないときは棄権か反対ということになります。これはアメリカの意向が多分に入っています。日本を守る核の傘を維持するためアメリカの核軍縮に関しては反対という立場。今だにこの路線は続いています。
 今の国際情勢と国内世論から日本が核兵器を持つことはないとは思いますが、紛争に巻き込まれる可能性はどんどん高くなっています。なにしろ、あの安倍晋三が総理ですから。先日の人質事件に関してもわざわざ自分で”罪を償わせる”と加筆したとのこと。自民党も早く彼をなんとかした方がいいんじゃない?と言っても今権力を持ってる人たちは安倍総理と同じ思いの人ばっかりのようなのだが...。
 本著で言うところの日本が核兵器を持とうとしていたという文脈にはアメリカから離れて独立国としてというのがあったと思います。今の安倍総理はアメリカから独立するとはこれっぽっちも思っていないでしょう。ただ他国を威嚇できる強い武器が欲しいというレベルでしかありません。日本の政治の劣化は著しい....。
 本著読んだの1年ぐらい前なのですが感想文書くのずいぶん遅れてしまった。
(★★★★)

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読書な毎日(215)

【あんぽん 孫正義伝】 佐野 眞一
 pepperイベント行って後日にいわぢろうをしのぶ会に来ていた佐野氏を見て、そういえば”あんぽん”読んでなかった!の思い出して読んだ次第。私はPCキャリアが長いのでソフトバンクは日本ソフトバンクの頃から知っています。私が最初買ったPCはMSXだったのですが、日本ソフトバンクと言えばギャングマンとかボンバーマンを思い出す。PC機種毎の雑誌も日本ソフトバンクは出していて、富士通FMシリーズ向けのOH!FMとか買っていましたね...懐かしい。孫氏の存在も一応は知っていましたが経営者なので興味なし。名前からして中国人かな?とは思っていましたが。
 その孫氏の日本ソフトバンクがソフトバンクとなり、ブロードバンド事業に乗りだし、yahooを買収、携帯電話キャリアを買収し、今や世界的なIT企業となった。しかし彼の人物像に特に興味があったわけではなかったのだが、あの佐野氏が「あんぽん」というタイトルで連載をはじめた。これは単行本出たら読まねば!と思っていたところに震災が起こりその後の孫氏の行動は皆さんも知るところと思いますが、俄然彼の人物像に興味がわき、あんぽんは買うつもりだったのですがすっかり忘れていた(^^;; pepperと佐野氏に会ったのもきっと何かの縁で”あんぽん”読み忘れているぞ!という警告だったのだろう(^^;
 そして読んでみて、こりゃたまげたわ!孫氏は朝鮮部落出身。子どものころはバラックに豚と一つ屋根の下に住んでいた。豚のエサの残飯を集めるおばあちゃんのひくリヤカーに乗って遊んでいたというのだ。極貧に近い生活。父、三憲は密造酒を売りながら徐々に資金を蓄え金貸しからパチンコチェーンを立ち上げ成り上がる。次男の正義は父の期待の星で九州屈指の進学校、久留米大学附設高校へ。更に飛び級で米国バークレー大へ。いわゆる神童ってやつです。帰国後、ソウトウェア卸の会社を起業し今に至る。コネも何もなくここまでのしあがってきた正にジャパニーズドリームを体現するような人物だったのです!孫氏やソフトバンクがいつも不当にたたかれるのは彼の出自が在日であり、コネもないからなのでしょう。そんな日本だと言うのに孫氏は”日本を愛している”と言ってはばかりません。
 驚くべきは孫氏だけではなく、彼の親族には胡散臭い人がいっぱい!その筆頭が父の三憲。半分ヤクザと言っても良いような人物です。母方親族も似たようなもの。殴り合いの喧嘩はしょっちゅうで、みんなハッタリをかましていてどこまでが本当の話かわかりません(^^; 逆に言えば彼らのような在日はそうやって生きていかないと日本で暮らすことができなかった。朝鮮人差別は歴然としてありまともな職業になかなかつけない。母方の叔父には炭鉱の爆発事故で死んだ人もいてとにかく過酷な環境だったということがわかります。孫氏も朝鮮人だとと言われて石を投げられて今も頭に傷が残ってるそうだ。人のふりみてわがふり直せなのか、掃き溜めに鶴なのかわかりませんが彼らと比較して孫氏のなんと上品なこと。私はてっきりどっかの坊っちゃまなのかと思っていました(^^; まあ、祖先をたどって行くと中国の官僚にあたる名家ではあるそうなのですがね。彼の打たれ強さはそんな境遇で育ったことと無縁ではないでしょう。最強レベルの胡散臭い人たちが周りにゴロゴロしていたのですから(^^; ちなみに孫氏は4人兄弟だそうですが4番目の泰蔵も優秀な人物。東大を出て、現在あのパズドラのガンホーの社長だそうな。映画にしたらジョブズ以上のドラマチックな物語になるでしょう。だれか「あんぽん」を映画にしないかい?
 たぶん書かれたくないこともいっぱいあったでしょうが、孫氏は佐野氏の取材に何度も応じ、記事に何の文句もつけなかったようです。一方であの橋下は第一回の連載で大騒ぎ、連載を中止に追い込んでしまいました。これぞ器の違いというものでしょう。
 ”あんぽん”とは小学生時代の孫氏のあだ名。在日だった彼は朝鮮名ではなく”安本”という姓を名乗っていました。これを音読みにしたのが彼のあだ名だった。在日であることをずっと隠していた彼でしたが米国留学で新しい価値観にふれ、帰国後本来の”孫”姓を名乗るようになった。親族らには反対されたが彼は頑として譲らなかった。
 現在は日本国籍を取得し日本人になっている孫氏ですが、ここにも面白いエピソードが。彼はもちろん孫という名前で日本国籍を取得しようとしました。しかしお役所は”孫”という名字は前例がないからダメと言ったそうです!ここでめげないのが孫氏。かれは日本人の奥さんの名字を”孫”に改名。後日お役所を訪れ、”孫”という名字があるはずですということで出てきたのが奥さんの名前。役所はぐうの音も出ず”孫”という名字で日本国籍が取得できたそうです。まるで一休さんのとんち話みたいですが、彼の打たれ強さと機転のききの良さを物語っています。
 孫氏がここまでのし上がってきた秘訣はなんでしょう。頭の良さと打たれ強さに加え、目利きがあることもその要因でしょう。ソフト卸に目をつけたのが最初の目利き。また、あの一太郎を見出したのはソフトバンクだったそうな。ブロードバンド事業に、yahoo、携帯電話事業。もちろん失敗もありますがその時は傷が大きくならないようにサッと手を引きます。これもトップダウンだからできるスピードなのでしょう。
 佐野氏は本の世界の人間だからでしょうが紙媒体の本を否定されるとカチンとくるようです。孫氏の持論の1つに紙の本は近いうちに無くなるというのがあります。その根拠は人間がその人生で読める文字数以上のデータを手持ちのメモリーカードに入れることができるようになるから、わざわざ紙に刷って持つ必然性がなくなるというもの。佐野氏はそれに対して本はグーテンベルクが発明してナンタラカンタラ...という本のロマンのような持論を展開しています。私も紙の本が全く消えることはないとは思いますが、フィルムの写真が消えていったようにいつの間にか身の回りからは無くなっていくものだと思う。今読む必要もないのに本棚に入れて場所をとるなんてよく考えればナンセンス。少なくとも佐野氏の生きてるうちに消えることはないでしょうがね。
 本著執筆時点ではエネルギー事業を孫氏が次の事業の柱と考えていると佐野氏は見ています。震災、原発爆発後の孫氏の動きは際立っていました。いわゆる財界で”脱原発”とはっきり言っていたのは彼ぐらいです。もう誰が見たって原発なんてオシマイなのに周りを見回してモゴモゴしているのが今の日本の財界であり政界なのです。父の三憲はそんな息子を見て心配になったそうです。在日がそんな目立つことをしたら刺されるぞ!というのが父のアドバイス。さすが修羅場を越えてきた人のことだけあり重みがある。それに応えた息子の返答は”脱原発で刺されるなら本望。私は死ぬまで原発に反対する。”だったそうです。ちょっと芝居じみたところもありますがこれが孫正義なのです。
 というわけで今後の孫氏からますます目が離せない。pepperからも目が離せない。
(★★★★☆)

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読書な毎日(214)

 読書はしているが感想文がなかなか書けなくなっとる。これはいかん!けれど今回は超大作だー

【スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実】 ルーク・ハーディング
 エドワード・スノーデンによるNSAの諜報活動の告発を追ったルポ。この事件が核爆級の大事件とは認識していましたが、ニュース等では断片的な情報で全体像が見えていませんでした。それが本書を読んでつながった。思っていた以上の内容で、世界史の転換点となる告発と言っても良いぐらい。
 スノーデンはアメリカ人で、真性のハッカーと言ってもよい人物です。コンピュータやネットワーク暗号化などのセキュリティ技術に精通。しかし、彼はずっとNSAの正職員ではなく契約会社からの派遣という形で働いています。これほどの重要機密にアクセスできる人物は正職員としてガチッと雇っておけばいいと思いますが、アメリカも日本同様に本当に技術的なことに精通している人は正職員にはいなくなっているのでしょう。彼らは内部的な事務作業や会議、権力闘争に明け暮れていて技術的なことを勉強している時間がないのです(^^; 現場はどっかで見つけてきたエンジニアに任せて丸投げ。彼らが何をやってるのかも、ほとんど理解していない。先日の日本のベネッセ事件もレベルは全然違いますが似たようなもの。
 スノーデンはずっと共和党支持者で、志願して軍隊に入っていたこともあるリバタリアンです。そんな彼が告発に至ったのは911後の米政府及びNSAの無軌道な権限拡大が目に余るようになったから。これは合衆国憲法修正第4条のプライバシー権に違反している!とスノーデンは考えたのです。
 少なくとも米国も911までは節度を持って監視活動をしていました。令状がなければ捜査(盗聴)できないし犯罪に関係ない人の情報の保存もしていません。ところが911の脅威につけこみ権限をどんどん拡大していったのがNSAを中心とした米諜報機関でした。スノーデンも敵国(ロシア、中国、イランなど)への諜報活動は否定していません。彼が問題視しているのは、ドイツやカナダなどの同盟国や国連などの国際機関への諜報活動。そして自国民アメリカ人への諜報活動です。
 NSAは通信会社やmicrosoft、google、facebook、apple などと通じていて、ルート権限で彼らのシステムにいつでもアクセス可能。電話や電子メールの通信記録は基本全部保管して交友関係をマッピングするシステムを保持。通話内容やメール本文も見ようと思えば見ることができます。また、大手暗号会社の発行する暗号キーには意図的にバックドアを仕込み、暗号化していても盗聴できるようになっているのです!安心のグリーンバーは盗聴OKの青信号だったというわけだ(^^; 携帯電話に関しても通話はもちろんのこと、携帯電話自体を盗聴器に使うこともできるそうだ。だからスノーデンは携帯電話を極度に警戒し、彼と話すときは携帯電話は持ち込み禁止。PC自体も同様で盗聴装置になり得るのでオンラインはご法度。データのやりとりはUSBメモリか自身で作成した暗号キーによる通信しか許しません。
 今まで都市伝説か陰謀論のように語られてきたエシュロンでしたが「PRISM」という名前で実在していたのです。しかもエシュロンとされていたものより広範で強力なもの。日本では青森の三沢基地がその拠点と言われていましたが正にビンゴ!スノーデンも一時期三沢にいたというのですから火のないとこに煙は立たぬとはこのことだ....。海底ケーブルの盗聴もがっつりやってまっせ。しかも通信機器メーカーや通信会社はパートナー企業よろしくがっちりタッグを組んでお金もらって盗聴の手助けしているのだから驚きです。彼らには通信事業者としてのモラルなんてものは何にもないのだ.....。
 同盟国の首相メルケルの携帯電話を何年にも渡って盗聴していたというのも驚きです。彼女はシュタージの東ドイツ出身だそう。シュタージの再来というかなんというか....メルケルも驚きというよりかあきれていることでしょう。NSA側の言い訳がふるっています。欲しい情報がったあった訳ではない(スパイ目的ではない)が、できたからやっちゃった...。個人的な目的で盗聴している職員もいました。例えば彼女の会話を盗聴したり...。つまり彼らに武器を持たせると必要なくとも使うのです。一方日本の話はほとんど載っていません。もっとも盗聴するまでもなく、情報をどんどん送ってくれるのが日本なんでしょうから(^^;
 スノーデンは本件を暴露する数年前にはこのNSAの所業を告発するという目的で行動をはじめています。彼もブッシュのときにはじまったこれらのプログラムがオバマに変わったら改められるのではと期待していたそうです。しかし、オバマはこれをそのまま引き継いでしまった。もう米国は変われないだろう。この一大事件はスノーデンの思いつきでパッとやった話ではなく彼の周到な準備と計画、そして決意があったから達成できたものなのです。米政府内にも正規の内部告発ルートというものがあるそうです。スノーデンの前にもこの正規のルートを使って告発した人がいましたが、なんと彼は守られず裁判にかけられ牢屋に入れられてしまいました。また、アサンジのウィキリークスに情報を提供したマニング上等兵も結局バレてしまい彼も牢屋です。米国が問題あることをやっているから告発しているのに結局は牢屋なのです。米国内でどんなに準備して告発しようが結局は足がついてしまう。それは諜報側にいたスノーデンが一番わかっていることでした。だから彼は香港からこの告発劇を行った。それは両親も彼のガールフレンドも米国との縁も切ってしまうという覚悟の上です。その使命感はすごいものです。
 この告発劇を演出した側にもドラマがあります。スノーデンの情報を世界にインパクトのあるニュースとして伝える媒体がやはり必要でした。まず、スノーデンがアクセスを試みたのはブラジル在住の著名な米国人ジャーナリスト グレン・グリーンウォルド。しかし、彼はITにあまり詳しくなく通信を暗号化してほしいと要求するスノーデンの言ってる意味がわからず、そのまま放置してしまう!しびれをきらしたスノーデンはアクセス先をドイツ在住の米国人ドキュメンタリー映画監督のローラ・ポイトラスに変更し彼女とのコンタクトに成功。世界は狭いもので、ポイトラスはクリーウォルドとつながっていた。更にここに英国のガーディアン誌が加わり世紀の告発劇となった。しかし、物語はまだ終わらない。米政府、そして英国政府の圧力があり、スノーデンは香港に滞在できなくなり脱出。南米に渡ろうとするも米国パスポートを抹消されモスクワのシェレメーチエヴォ国際空港に留め置かれますが、ロシアから滞在許可が出て現在も彼はロシアにいます。彼は現状祖国を失いどこにも行けない人になってしまいました。
 彼はロシアにいますが、ロシアが正義というわけではもちろんありません。ロシアも米国並に自国民を監視しています。しかし、米国の息のかかった国に移動すれば彼はすぐに捕まって牢屋ですからロシアにいるしかないのです。スノーデン逃走劇をウィキリークスのアサンジも手助けしているのですが、彼の状況も似たようなもの。アサンジは現在、ロンドンのエクアドル大使館から出れない状態になっています。出れば捕まって牢屋。
 日本でもスノーデンは一応誰でも知っていますが、彼がやったこと、NSAがやっていたこと。何が問題とされているかを理解している人はほとんどいないでしょう。なぜなら日本が米国の属国で及び腰でしか報道できないからです。「Citizenfour」というポイトラスが監督のスノーデンのドキュメンタリー映画が欧米で公開され話題になっています。しかし、おそらくこの映画は日本で公開されないでしょう。なぜなら、これはたぶん日本の特定秘密にあたるからです(^^; 冗談ではなく日本はそういう段階にきちゃってます。
 そんなわけで、PCはlinux電話はfirefox phone。暗号キーは自分で生成するというのが市民として自己防衛する方法なんです。私は悪いことしてないから盗聴されても問題ないさ!ってあなた。スノーデンとかアサンジはなんか悪いことしたのかな?彼らは政府の意に沿ってない不都合なことを公開したから追われているのです。ビッグブラザーの一員で問題ない人はどうぞ今まで通りマイクロソフトとかアップルを存分に使ってください。
 こんなに書いてもまだ書きたりない気がしますがこれはそれだけ重要な事件ということです。このネタを映画にしようとしているオリバー・ストーンには敬意をはらいたい。しかし、まだ映画化するまでは幾多の困難があることでしょう。敵はなにしろビッグブラザーだからね。
(★★★★☆)

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読書な毎日(213)

【ハイリスク・ノーリターン】 山口 祐二郎
 東電勝又会長宅前で抗議のハンストした青年の半生記。twitterでフォローもしていましたが本著を読むまでは著者がこんなにいろんな経験をしていたとは想像もつかなかった。まだ27才だそうですが普通の人の一生分以上のことをやっている。たまげた。
 彼の学生時代はいじめられっ子。強くなりたいということで合気道をはじめのめりこみ有段者に。飽き足らずストリートファイターとなるが格闘で強くなることに一区切りつける。次はロックにのめり込み新聞配達をしながら音楽学校へ。しかし芸能界の縁故主義を目の当たりにし、街頭で遭遇した統一戦線義勇軍、針谷大輔氏の右翼活動に傾倒。新聞配達はやめようとするがやめられない契約になっていた。米国迎合の日本政府に怒りを覚え日経の新聞配達員の身分のままで防衛庁を火炎瓶襲撃し収監。刑期を終えた後も右翼活動を続けつつホストとなり店の売上NO2までなるがやめてヒモになる。右翼活動をする中で震災が起こる。東電の対応に怒りを覚え勝又会長宅へ。現在もヘイトスピーチのしばき隊として活躍中。
 日経配達員の火炎瓶事件は私も覚えていますが、あれがこの山口さんだったとは!針谷氏もよく見る名前ですがそこの構成員でもあったのですね。そういったベースがあってのハンストだったわけで、どうりで肝が座ってるわけだ。
 本著には興味深いエピソードも数多く載っています。右翼と警察の関係がその1つ。右翼と言ってもいわゆる親米右翼と反米右翼がいます。統一戦線義勇軍や鈴木邦男の一水会は後者になります。こちらが本来なら正統派の右翼にあたるものですが、日本で目立っているのは前者の親米右翼です。この親米右翼は警察(公安)とも日本政府とも近い位置にあり、左翼や日教組、市民勢力、中国・朝鮮系を敵視していて攻撃的です。街宣車を走らせてがなっているのは彼らです。これらに加えて最近は特に北朝鮮に対して先鋭的なネット右翼という勢力もいます。
 右翼活動をしていると言うと資金力があると思われるそうですが、反米右翼は全然金がないそうです。私も針谷氏は大物で有力者かと思っていたのですが、本著によるとタクシー運転手として働き街宣活動をしているそうだ。どこかから金もらうとやりたい活動ができなくなるから自分で稼ぐ。なんとカッコイイ活動家なんだ。一方の親米の方はどうやら国家とズブズブの関係にある。飲ませ食わせ活動資金もあたりまえ。彼らがいて問題が起こりそうなときはどっか消えてろということでバカンス代まで出してくれる。噂には聞く話であったがここまでとは。
 新聞配達員の話も興味深いとうよりヒドイ。新聞奨学生というのありますがこれはお金のない若者を奴隷のように使うに似た制度のよう。学費を前借りして新聞配達させるのですが、学校を退学して授業料を新聞屋が収めていなくても働かなければいけない契約になっている。山口さんは何度も日経本社に抗議に行くが、これが契約だの一点張り。火炎瓶を投げるまで日経は開放してくれなかったのだ(^^; しかし、これが言論とか人権を高らかにうたってる新聞社のやることなんだろうか?
 火炎瓶というのも私のボキャブラリーに無かったものだが、これは投げなくともつくったり所持するだけで犯罪になるそうだ。それだけ、国家が恐れてる武器ということなんでしょう。ワイン瓶で火炎瓶をつくるあたりが山口さんらしてくオシャレ。
 国家は彼らのような本物の右翼を恐れているのでしょう。右翼と左翼、市民が手を結んで現在の官僚と財界と米国を中心にした国家体制を転覆することを怖がっている。だから右翼の一部を切り崩して親米にし、左翼勢力と対立させている。この状態は正に三島由紀夫が自決したときから何も変わっていない。それでも一億総中流政策がうまくいっていたときは庶民の満足度がそれなりに高かった。けれど米国が弱り、引きずられて日本も弱くなり一億総中流が維持できなくなりつつあるのが今の日本の姿だろう。
 しかし、著者は27才でここまでのポテンシャルを持ってるとは末おそろしい!ある意味すべて経験済みだし失うものも怖いものもなしの最終型、スーパーサイヤ人みたいなものだ。文章は読みやすく肩の力が抜けているが迫力もある。格闘シーンはひきこまれて電車を乗り過ごしてしまったよ。
 あとお父さんもかなりの大物。彼が何をやってもニコニコして受け止めている感じ、これはなかなかできない。とにかく、これから混沌とした日本になるのだろうがそういう時代に山口 祐二郎は必要な人物だろう。本著は実はまだ第一章にしかすぎないのかもしれない。
(★★★★)

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読書な毎日(212)

【普天間基地はあなたの隣にある。だから一緒になくしたい。】 伊波 洋一
 著者は元宜野湾市長で前回の沖縄知事選に出馬し惜しくも落選しました。私も名前は知っていてツイッターでもフォローしてはいましたが伊波さんのことをよく知りませんでした。本作は沖縄旅行の予習で昨年末に読んだのですが、実は沖縄の基地についてもほとんど知らなかったというのが本著を読んでよくわかりました。
 沖縄に米軍基地はたくさんありますが多くはもともと人が住んでいた場所だったのを住民を立ち退かせ、ブルドーザでならして米軍基地にしたもの。この普天間もそうで今基地のあるあたりは宜野湾市の中心街だったそうだ。立ち退かされた住民は基地周辺の狭い土地に押し込められ70年たってもそのままなのです。基地に使われている土地は”軍用地”と呼ばれています。軍用地は交渉の末、借地料が日本国から払われています。その額は年間900億円。沖縄で”軍用地求む”という看板があり、あれは何だろうか?と思っていたのですがこの軍用地は確実な定収が得られるということで売買されているそうなのだ。この軍用地をめぐって借地料をもらってる人とそうでない人の間でトラブルもあるそうだ。
 本土の米軍基地は元日本軍の基地だった場所がほとんどで民間人の土地が基地になってる場所というのは今はないですが、沖縄にはまだたくさんあるのです。そもそもの話ですが、独立国に外国の軍隊が半永久的に駐留しているのはおかしなことなのです。つまり事実上日本はまだ米国の植民地ということなのだろう。
 普天間基地は土地収用も問題ですが危険度でも大きな問題を持っています。世界一危険な基地という称号もあり、基地と住宅地が隣接して建っています。これは米国の航空法も満たさないし日本の航空法も満たさない違法状態の基地。ヘリが大学に墜落した事故は記憶に新しいですが、米軍もこの基地だけはできれば使いたくないのでしょう。それなら基地を返却すれば済むはずですが辺野古に新しい代替基地をつくるというのですからおかしな話です。
 伊波さんは新たな海兵隊の基地が不要であることを調べて示しています。米軍は沖縄に駐留する海兵隊をグアムに移転する計画を進めています。日本国内の基地はいろいろ使いづらいがこれ以上拡張するわけにもいかないのでグアムに基地をつくる予定なのです。海兵隊の家族もみんなグアムに引越。その引越費用とグアムの基地の建設費まで日本は出すことになっています。なんで、それなのに普天間はそのままだし、辺野古に基地をつくるんでしょう。本当におかしな話です。
 私が推測するに、官僚や自衛隊が米軍をひきとめようとしているのでしょう。彼らは米国という虎の威をかって偉そうにしているから米軍がいなくなっちゃうと困るのです。
 伊波さんは知事選落ちてしまいましたが、重要な政治家です。知事選のあとに再度出馬した2012年の宜野湾市長選に僅差でなぜか落選しています。まだ若いですから今後も活躍してほしい。
(★★★★)

【基地はなぜ沖縄に集中しているのか】 NHK取材班
 NHKの番組の取材を通してできた著書。沖縄の基地問題についてよく調べてありはじめて知る話も多かった。先に感想書いた伊波さんの著作に重なる部分も多い。
 なぜ基地が沖縄に集中しているのか。一言で言えば、戦後も日本の捨て石に沖縄がされたからです。敗戦後、日本軍の基地は占領した米軍にわたりました。日本各地の基地が米軍基地となったのです。1950年のサンフランシスコ講和条約で表向き米国の占領が終わり、本土の米軍基地は徐々に返還されはじめましたが返還されず紛争が起きる地域も多かった。そこで沖縄に代替の米軍基地を用意し、1950年以降むしろ沖縄は米軍が増えていった。また、現在問題になっている普天間基地の海兵隊は戦後日本にはいなかったが米国から移ってきた部隊だというのです。なんで沖縄が米軍にとって有用かと言えばそれは基地が集中しているからです。部隊が集まることによりいろんな訓練ができる。森もあるし海もあるので様々な訓練ができる。また、リゾート地としての沖縄も大きな魅力なのです。
 しかし、そんな素晴らしい沖縄から最近米軍が出ていこうとしています。海兵隊がグアムに移転するのは規程路線。これは何故かと言えば、1)県民の基地反対感情が大きいから 2)これ以上基地(訓練施設)の拡大が見込めないから 3)まがりなりにも他国なので、米国以外の軍隊が一緒に訓練できない。4)憲法9条とか非核三原則とか邪魔なものがあるので、好きに核兵器持ち込んだりドッカンドッカン派手に訓練ができない。
 それでグアムなのですが、それを基地をつくるから出てかないで!と引き留めているのが日本の外務官僚であり防衛省というのが現在の構図です。彼らは米軍という後ろ盾がいなくなると困るのです。どんだけ属国根性なんだか。
 軍隊の普段の仕事は何かと言えばそれは訓練(戦争ごっこ)なのです。戦争なんて滅多に起きません。つまり訓練しやすいことが彼らにとって良い基地なんですね。今の海兵隊はグアムに理想の基地をつくることに燃えています。今更制約の多い沖縄に基地はいらないのです。
 先の感想文に書いた軍用地問題は本著の方が詳しく書いてあります。私はじめとしてヤマトンチュはほとんどこの問題について知らないだろう。報道も全くされません。つまりタブーなんだね。
 基地と地元の関係については日本と米国では全く違うようです。米国にある米軍基地は地域の人たちと定期的に会合をもち、訓練の予定などを連絡するそうです。ところが日本の場合は全く違います。訓練の予定が連絡されることは一切なく。突然、発着訓練や実弾訓練がはじまったりします。聞いても教えてくれないから抗議するだけ。オスプレイもどこで訓練するかわからないから”○○で目撃されました!”なんてニュースでやっている。UFOじゃあるまいし(^^; こんだけバカにされてるというのに、今だに”米軍出ていけ!”って言わない日本人ってどんだけお人好しなんだか。今も米軍基地が日本にあるという状況がおかしいと思わないことが平和ボケなんです。
 鳩山総理のときはやはりチャンスではあったんだよね。ひっくり返されたけど。まあ、とにかく米軍もそれほど沖縄にこだわらなくなってるようだし今の状態は長続きしないだろう。今や沖縄も米軍基地を必要としていない。
 本著が出版されたのは311後ですが番組が放映されたのは311前。どちらも素晴らしい仕事だと思うけど、最近のNHKはこの頃のNHKではなくなってきているように思うのは私だけだろうか。
(★★★★)

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読書な毎日(211)

【精神病とモザイク タブーの世界にカメラを向ける】 想田 和弘
 映画「精神」のプロダクションノートといった感じの本。私は映画みたすぐ後に本著を読みました。映画みただけでは知れない舞台裏の話がたくさん出ていて興味深かった。
 ドキュメンタリーで人間を撮るというのは想像以上にたいへんなことだろう。その相手が一般人でしかも精神病となればなおさら。そこをモザイクで逃げてしまうドキュメンタリーも多いが想田監督はその手法をとらない。本作でも撮った後に自殺した人や、撮った映像を使わないで欲しいと言ってきた人もあったそう。そういったことを乗り越えての映画なんだなとあらためて思った。映画の方はわりとサラッと見れてしまうのだがその舞台裏はたいへんだ。これは私にはできない仕事だ。
 想田監督の観察映画として「精神」は2本目だが著作は本作が1冊目になります。ドキュメンタリーという手法自体は昔からありますが作家性の強い作品がつくれるようになったのはやはり機器の進化の恩恵によるところが大きいだろう。想田監督は撮影、音声、編集まで全部一人でやります。資金も自分で調達。正に自分の好きなようにできるのではありますが、誰のせいにもできない。孤独な戦いだろう。この後監督はPeace 演劇 とコンスタントに観察映画をリリースし、私も追っかけの一人になってます。著作も全部読んでるので追々感想書いていきます。
(★★★☆)

【なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか】 想田 和弘
 観察映画第三弾の「Peace」と一緒に出版された著作。私も同じ時期に購入しましたが「演劇」を見る少し前に読みました。「Peace」のプロダクションノートという面もありますが、なぜ著者が観察映画を撮るようになったかを彼の半生も含めて書いてあります。
 著者はダイレクトシネマの巨匠フレデリック・ワイズマンを敬愛していて、観察映画とはここからきているのだった。私はドキュメンタリーをけっこう見てるつもりでしたが、ダイレクトシネマという単語は知らなかった。これは映像とその場で撮った音声だけで表現するドキュメンタリーでナレーションや音楽テロップも入れないというもの。つまり観察映画もこのジャンルということになるだろう。ただし、想田監督の場合は手持ちのビデオカメラで映像と音声を一人で撮っているので表現方法は似ているが被写体へのアプローチが違っています。先に書いた通り、編集も一人でやっているそうですが、これは20年前なら不可能だった手法。ビデオカメラが小型化され、編集がPCでできるようになっため可能となりました。資金的にも少額ですみます。この手法ができるようになったため想田監督は観察映画と名づけて撮り始めたということだったのです。
 今やビデオカメラは携帯電話にもついてますし、編集だってやる気さえあれば誰でもできます。作品だってyoutubeにアップさえすれば出来不出来は別にして世界に公開することができます。しかし、作文と同じで撮ったからと言って誰かがみてくれるわけではないし、評価してくれるわけでもない。こんな時代だから映像を見たりつくったりするリテラシーをもっと見につけた方がいいでしょうね。学校で必修にしてもいいぐらいかも。と思ったりした。今の映像メディアはやりたい放題だからね。
(★★★☆)

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読書な毎日(210)

【オーストラリア―多文化社会の選択】 杉本 良夫
 オーストラリア在住の社会学者の著作。オーストラリア予習で読みました。オーストラリアの印象ってあまり無かったのですが本著を読んで実際に行ったことにより親近感がわくようになりました。オーストラリア人って日本にもけっこう住んでるそうだ。実際、我が家の近所に住んでるし、保育園のお友達のお父さんもオーストラリア人だったりする。
 白人を見るとヨーロッパもアメリカもオーストラリアも同じに見えてしまうのですがけっこう違うようです。オーストラリアは地理的に言えば欧米よりアジアに近接しているわけで、彼らはむしろアジアの一員と感じている。元はアボリジニが住んでいた島ですが、白人がやってきて囚人を送る島となる。規模は違うが八丈島みたいだ。だから判官びいきが国民性になっているところがある。そうです、ウィキペディアのジュリアン・アサンジもオーストラリア人だよ。
 一方で原住民のアボリジニに対する白豪主義は負の面として知られています。アボリジニの土地を奪い、隔離し親から離して無理に同化させようとしますが、1975年に人種差別禁止法が成立。これ以降オーストラリアは多文化主義を前面に出して移民や難民を積極的に受け入れる国となります。おかげでカンボジア人やベトナム人が多い。
 選挙制度に関しては義務投票制を導入しています。投票に行かないと罰金(約2000円)をとられる。このおかげで投票率はなんと90%超とのこと。日本も是非とも導入してほしい。
 オーストラリア人は行って感じましたが実に大らかで細かいことを気にしません。そして親切です。多文化社会と言われるだけありいろんな人がいます。アジア人でも全く違和感なし。日本人も多い。物価は日本並に高いですが、日本が原発爆発して住めない国になったらオーストラリアはいいかも。たぶん難民として受け入れてくれるでしょう。オーストラリアはそうやって様々な国の難民を受け入れて大きくなってきた国なんです。日本とはその点が全く違う。
 オーストラリア人は近所づきあいしないわけではないが引っ越したからと言って近所に挨拶にまわったりしないし、町内会のようなものもつくらないそうだ。向かいに引っ越してきたオーストラリア人は挨拶に来なかったがそういうことだったか(^^; またオーストラリアのGDPはそれほど高くないが生活水準は高い。なぜかと言えば、自分でなんでもつくって無駄な出費をしないからだそうだ。私もこれ読んでからオーストラリア人見習ってトイレのロータンク修理を自力でやりました。完遂まで2週間ぐらいかかったけど(^^;
 著者は英語圏での日本人研究者として有名のよう。著者自身は日本人は嫌いではないが”日本”というシステムが嫌いでオーストラリアに永住するようになった。二人の娘もオーストラリア在住で結婚もしている。官僚が支配し原発という時限爆弾を仕掛けた日本という国はもう捨てちゃってもいいかもね(^^;;
(★★★★)

【日本が破壊する世界遺産―日本の原発とオーストラリア・ウラン採掘】 伊藤 孝司
 オーストラリアではウランが採掘できますが原発はありません。そしてオーストラリアのウランの大半は日本に輸出されています。もともとウランはオーストラリアでは重要視されていませんでしたが、原発が稼働し資源として注目されるようになりました。ところがその有力鉱山の多くがアボリジニの土地でありオーストラリアの国立公園内にあった。日本の電力会社と商社そして政府は必死にロビー活動を行いここで採掘できる権利をゲットしたのだった。
 ウランを掘ると大量の残土が出ます。また精製過程でも大量の廃棄物が出ます。それらはあたりまえですが核廃棄物です。何万年も有害です。つまり原発が動くとオーストラリアの環境も破壊していることなるのです。川上から川下まで汚染をまきちらすろくでもないエネルギーが核。こんなエネルギー使うのは一刻も早くやめるべきです。
 オーストラリアはウランが採掘されるのになぜ原発がないか。それは単純な話。反対運動があったこともありますが、コストがかかるから。オーストラリアは石炭や石油がとれるのにわざわざ金がかかって危険なウランを使う理由がないのです。
 本著は日本の原発とオーストラリア・ウラン採掘の関係を扱った数少ない著作。日本でウランが掘れるとか、リサイクルしてるとか勘違いしている人は今も多いのだろうか?
(★★★☆)

【オーストラリア入門】 竹田 いさみ,永野 隆行,森 健
 オーストラリア入門というより百科事典的な本。歴史、政治、文化、経済、自然などなんでも載っているので全部読まないで興味あるとこだけ読んでもいいでしょう。私が読んだのは第二版で2007年に出版されたものなので内容も比較的新しいです。本著はオーストラリアに行く前に半分ぐらい読んで帰ってきてから全部読みました。
 オーストラリアは元はアボリジニの国でしたが白人が入ってきて土地を奪っていきました。米国と似ている。しかし、ヨーロッパから遠すぎるため米国のように産業を発展させる方向にはいかず人口もそれほど増えずある意味平和な国です。産業としては観光業と鉱業が今も中心となっています。資源は豊富で世界に輸出しています。牛肉や穀類、ワインも有力な輸出産業となっています。オーストラリアではほぼオーストラリアワインしか売っていませんでした。ワインの値段は他の物価に比べてかなり安め。牛肉に関しては日本人は肉の好みが違うので日本人用の牛を飼育している(牧草でなく穀物を主エサにする)。オージービーフとか言って日本人は喜んで食べてるけどあれは日本向けオージービーフなのだった(^^;
 映画の話もけっこう書いてあります。最近はオーストラリア映画もそれなりの地位を確保していますが、はじまりはやはりメル・ギブソンのマッドマックスだね。アボリジニの分離政策を描いた「裸足の1500マイル」は私も見て印象に残ってる映画ですが、オーストラリア的にも重要な映画だったようだ。
 日本との関係で言うと第二次大戦の際にオーストラリアに日本軍が空爆し捕虜を泰緬鐵道で強制労働させたくさん殺したという暗い過去があります。その割にオーストラリアは日本に親近感を持っており、貿易面でも輸出の1位が日本です。ありがたいことです。日本とオーストラリアの結びつきはけっこう深いのです。
 とにかく、オーストラリアは行ってみてけっこう気に入りました。今回はケアンズでしたが機会あれば別の都市にも行ってみたい。
(★★★)

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読書な毎日(209)

【電通と原発報道】 本間 龍
 著者は元博報堂の社員だった人で原発と電通というより広告代理店とメディアとスポンサーの関係について書いてある本です。著者は現在は代理店とは縁のない世界にいるそうで遠慮なく書いてあります。
 代理店業界の1位はご存知の通り電通で2位が博報堂。以下その他というぐらい差があるのがこの業界。電通の強さはメディア枠を多く既に押さえているところにあります。つまり枠をある意味言い値でスポンサーに提供できるということ。当然ながらメディアにとってはうれしい話。とりあえず電通が枠を買ってくれてスポンサーを探してくれるのですから。この持ちつもたれつの関係はTVの草創期からはじまっています。日本のTV放送がはじまったのは1953年。アメリカの日本占領が解除された直後です。日本のメディアのあり方が今のようにお上に従順で自主規制ばかりするようになってしまったのはこの時期が大きく影響しているでしょう。
 電通は正にTVと一緒に大きくなった会社です。歴史としては博報堂の方が古い。インターネットが出現するまでは正にTVと電通の天下でした。しかし、その王道は近頃通用しなくなっています。居間にTVがあってみんなで座って同じ時間に同じ画面を見ているというライフスタイルがインターネットや携帯端末の登場によって消失したからです。視聴率の高い番組に広告をうっておけば良いという時代は終わったのです。その状況の中で広告業界はどうすれば消費者に宣伝が届くか試行錯誤しているのです。
 電通はコネ通とも呼ばれ、有力者やスポンサーの子息を採用もしていてその政治力に影響されることも多いようではありますが、結局は金をたくさん出すスポンサーのいいなりの企業なのです。金づるは最大限の努力を惜しまず守る。ネガティブな情報や事故があれば広がらないように工作する。だから東電だってあれほどの事故が起こしても必死で守ろうとしていたのです。
 電力会社が大量の広告をうつようになったのはわりと最近の話。1999年のJCO事故が契機になっています。あれで危機を感じた原子力村が原子力の悪いイメージを払拭するために大量の広告を打ち、特に情報・ニュース系の番組のスポンサーとなって目を光らせるようになった。だから原子力のネガティブなニュースはほとんどのぼらず、いつの間にか54基もつくられてしまったのだ。
 ところが現状は東電の広告は全くなくなりました。電事連の広告も全くやっていません。事故直後は”節電しろ!”という恫喝するような広告をやっていましたが、ついに彼らを広告がうてない状況に追い込んだのです。これは大きな勝利と言ってよいでしょう。今後少なくとも”東電”という名前で広告をうつことは不可能でしょう。それが証拠にでんこは引退し、ピーアール館もしめざるをえなくなりました。広告業界もこの状況をようやく理解したでしょう。東電からはもう二度と広告が出ないことを。
 東電はデカイし政治力も持っているのでなかなか観念しない。でも、東電と原発はいつか消えてなくなることでしょう。イメージアップは不可能だし、これだけのことをやらかしたのですから。
 本著は東電だけでなく他の大スポンサーのこともいろいろ書いてありますが概して大スポンサーというのは性格が悪いようだ。電器業界の松下、食品業界の日清、洗剤業界の花王、自動車業界のトヨタなど。我が家はどれももともと買わないけどね。性格の悪さは商品に出るのだ。
 本著を読んでホッとしたのは広告業界では義理や人情よりカネが重要とわかったこと。つまり金の切れ目が縁の切れ目。東電と電通の蜜月は既に終了したということです。電通のようなイメージ戦略のプロを失った東電はただ滅びゆくのみ。原発ももちろんオシマイ。
(★★★★)

【私が愛した東京電力】 蓮池 透
 拉致被害者の蓮池薫の兄の手記。彼が東電に勤めていたという話は聞いていたがこんな本を出すとは。蓮池透氏自身は事故前から東電を退職していましたが、東電に入社し福島原発、柏崎原発、核燃料サイクルと原発畑をずっと歩んできた人。自分が長年勤めてきた会社に対する愛の鞭と言って良いのが本著です。
 彼の原発に対する結論は段階的廃炉による脱原発。再処理は廃止です。理由は核廃棄物問題が解決する見込みがないことと、これ以上核廃棄物を増やせないことによります。彼も原子力村の住人ですから原発の安全性にはある程度の自身を持っていたようです。だから今回の事故はショックだったのです。だから、言わなければならないということで彼は”脱原発”を表に立って言うようになったのです。
 さすが現場の人間だっただけあり本著の内容には凄味があります。原発というのは米国のGEのターンキー契約による代物だそう。つまり自動車と同じ。東電はキーをもらって運転しているだけで壊れても直せないのです。東芝や三菱も設計図通りにつくってるだけのライセンス生産。
 東電はいばってると思っていましたが更にいばってるのはやはり官僚だった。東電には官僚用の会議室があり、そこには官僚のすきな飲み物を冷やしとく冷蔵庫もあったそうだ。日本のガンはホントこの官僚様なんだよな。
 先輩にわざと被爆させられるようなイジメを受けたこともあるそうだ。ちなみに蓮池さんの子どもは全員女の子だそう。
 蓮池さんがこのような本を出したのは東電を愛するがゆえ。東電に変わってほしいからです。ところが東電はその愛に応える様子が全くありません。蓮池さんはツイッターをやっていて私もフォローしていますが、最近は東電や原子力に愛想つかしぎみのように見えます。もう彼らに自浄能力を期待するのは無理のようだ。私もこの本を読んだ当時(半年ぐらい前)はまだ段階的廃炉を提唱していました。原子力村にも生活があると思っていたからです。ところが彼らの反省のない様子を見せられ続け”即廃炉派”に転向しました。もうダメです。彼らに配慮していたら地球が滅びてしまいます。
 たぶん次に蓮池さんが本を出すなら「私が愛していた東京電力」になることでしょう。
(★★★★)

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読書な毎日(208)

【ショージとタカオ】 井手 洋子
 布川事件の元被告の桜井昌司と杉山卓男を釈放後15年にわたって追ったドキュメンタリー映画の取材記。通常こういう本は映画の公開にあわせて出るものだが、公開が終わってから出版されたもの。というのもこの映画の公開当時は再審無罪が出ておらず、映画が公開されそして無罪判決が出るところまでが本著では描かれています。私は映画の方は見たかったのですが見てません。本著によると登場人物の中にDVD化望まない人がいるらしく、DVD化の予定はないそうです。
 布川事件は冤罪の代名詞みたいなものだったので本件の概要については知っていましたが詳しくは知らず。本著を読んでこれまたひどい事件だったとわかりました。一人暮らしの大工が殺されてお金を盗まれた強盗殺人で、なかなか犯人が捕まらず。捜査上に上がったのは近所で知られたチンピラ二人、それがショージとタカオだった。二人は別々に別件逮捕され、犯行を自白。もちろんこれはやっていない事件の自白。裁判になって二人は起訴事実を否認しますが無期懲役が確定。刑期を終えて出所してからも再審請求運動を15年もやってようやく無罪を勝ち取る。
 二人は確かに町のチンピラではありましたが、殺人はしていない。やってもいないことで牢屋に入れられ無罪を晴らすのに40年とはなんともふざけた話です。本著を読むとよくわかるのですが無罪を勝ち取るために二人はかなりの努力をしています。獄中から自分は無罪であることを発信し続け、釈放後も無罪あることを各地でアピールを続ける。おかげで布川事件は世に知られる事件となった。無罪を勝ち取れたのはこの二人だったからで、普通の精神力の人間では到底無理だったのではなかろうかと思います。つまり泣き寝入り冤罪というのはおそらくこの10倍どころではないのではなかろうか。日本の警察&検察、そして裁判というのがいかにおかしなシステムであるかというのがわかります。裁判の原則は”疑わしきは罰せず”のはずですが”疑わしくなくても罰する”が実態なのです。
 この二人のすごいところは生きることに貪欲であること。普通なら冤罪とはいえ25年もぶちこまれていたら出所しても何もする気がしないでしょう。ところが二人は新しいパートナーを見つけて結婚し、タカオの方は子どもにも恵まれます。そしてついに再審無罪を勝ち取る。
 二人だから頑張れたというのもあるようですが、お互いにわだかまりも持っています。元はこの二人は顔見知り程度でつるんでいたわけではなかった。逮捕をきっかけにお互いを知ったが、相手のせいで自分が捕まったかもしれないと思っている部分もあるのです。こうやって容疑者同士を疑心暗鬼にさせるのが警察の取調べの手法なのですが、それはなかな消えないのです。
 運悪いことに本作の公開と二人の再審は東日本大震災に重なってしまいました。映画は予定通り公開されましたが、再審は延期。天災とはいえこんだけ待たせといて更に延びるとは残酷な話だ。
 日本の冤罪の多さとそれを覆すことの難しさはおそらく世界有数でしょう。これをして司法改革だったはずなのですが、裁判員制度でごまかされてしまいました。しかし、政権交代したおかげで冤罪が顕在化してきたので、今や冤罪が珍しくないことを多くの人が知ったはず。村木裁判や小沢裁判で検察も信用がならないことも知られてきました。ここで本当に改革しないと日本はますます暗黒国家になっちゃうぞ。
 監督が本作をとるきっかけは、集会の撮影を頼まれたこと。作品にするつもりで撮っていたわけではないが、二人に興味もち作品として仕上げたのです。いっちょあがりのドキュメンタリーとは訳が違う。とにかくショージとタカオは絶対みたい。上映会を探していかないと。
(★★★★)

【福田君を殺して何になる】 増田 美智子
 光市母子殺人事件のルポ。著者はフリーライターで個人的興味から本件の取材をはじめ、発表媒体があったわけでも出版の予定があったわけでも無かったそうだ。
 少年が死刑になるかどうかということでマスコミが大騒ぎした事件だったが、私はそれほど興味を持っていたわけではない。なぜ本著を読んだかと言えばワル警の寺澤さんの出版社から出てるものだったから。
 本事件は有罪は間違いないが量刑が適当かが問題になっている。当時18歳だった福田君。この福田という実名をマスコミは出していません。なぜなら犯行当時少年だったから。しかし、死刑を煽ったのはマスコミです。著者は少年Aが死刑では、その人物が浮かび上がってこないという理由で福田くん本人にも了承をとって実名を公開しています。本著はこれが功を奏していますが、福田君の弁護団はこのことに怒っています。
 本作は福田君に著者が手紙を出しそれに返事がかえってくるところからはじまります。その返事はマスコミで描かれている悪魔とはかけ離れたものです。小学生が苦労して文通しているような手紙。まだ会ったこともない相手だというのにお友達のような慣れなれしさ。おそらく福田君は軽度の知的障害ではなかろうかと私は思います。特に女性との距離のとり方がわからず、”自分はじつはけっこうモテるんだ”みたいなことを平気で手紙に書いています。
 彼が悪魔とされたのは、収監されて全く反省していないからとされています。その根拠となっているのは収監中に近くの房にいた青年との文通です。彼らは意気投合し、文通するのですが他に娯楽がないこともあり、悪ノリがすぎるようなときもあった。先に青年は釈放されますが文通は続く。そこに警察がやってきて青年に手紙を公開するように迫り、更には悪ノリを煽るような手紙を書かせます。そしてこれが裁判で証拠として採用され、週刊誌にも出て福田君は悪魔の代名詞となるのです。そもそも事件後に書いていた手紙が証拠と採用されるというのはアリなの?しかも警察がその内容を煽っていたというのはどういうこと?
 福田君自身は人を二人も殺したのだから死刑もやむなしと思っています。しかし、この事件は詳細に分析すれば量刑として死刑は適当ではありません。以下は私の推測するストーリーです。福田君は水道工事の仕事をしていてこの日はさぼっていた。職場近くのマンションに水道検査のフリをして何軒か訪問。そのうちの一軒の本村家で奥様にやさしい対応をされたため、自分に気があると勘違いし抱きつくが拒否され大声を出されたのでパニックになり絞殺。そして死姦する。子どもが泣き止まなかったのでこちらも絞殺。そして財布を盗んで逃走した。
 確かにこれは強盗強姦殺人ですが、初犯であり突発的な犯行です。また、少年であり知的障害の可能性もあり犯行当時はパニック状態だったと思われます。反省していないと叩かれていましたが、私信をとりあげて反省していないというのはおかしな話。実際福田くんは反省しています。
 彼の生育環境もこの事件の大きな原因になっているようです。彼の父はDV男でお母さんや福田くんをよく殴っていました。お母さんはそれにいつも耐えていましたが、彼が小学生のときに自殺。しかし、福田くんは父が母を殺したかもしれないと思っています。その後再婚して弟がうまれますが父のDVは相変わらず。福田くんは学校で勉強もスポーツもできませんでしたが、いつもおどけていて憎めないタイプだったようです。いわゆる天然ボケ。今もそれは変わらず、悪魔というより落ち着きの無い子どものようです。
 安田弁護士に変わった最高裁での裁判に出てきた証言”どらえもんがなんとかしてくれると思って押入れに赤ちゃんを入れた”というのもボケてるふりではなく、本当にそう思っていたのです。これら証言に関しては前任弁護士のときにも、言ったが相手にしてもらえなかったそうだ。
 安田弁護団から著者は門前払い状態です。安田弁護士はマスコミ嫌いです。たいてい、あることないことを面白おかしく報じるだけだから。だから、信用した人しか相手にしません。著者の増田さんは言ってみればポッと出です。それで、福田君に会いその周辺を取材していたので良く思わなかったのでしょう。これだけの本を書く人なんだから安田弁護士も一度会ってみれば良かったのにと思います。
 光市母子殺人事件とは思っていた以上に様々な要素が絡まった今の日本を象徴する事件だったということを本著を読んで知りました。死刑、少年犯罪、知的障害犯罪、マスコミ、弁護士、警察、DV。死刑判決が出て、世間はこの事件を忘れてしまったようですが今も安田弁護団は減刑を求めて再審請求をしています。福田君はまだ20代です。彼を殺しても何の解決にもなりません。
(★★★★)

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