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読書な毎日(96)

【僕はやってない】 守 大助、阿部 泰雄
 仙台 北陵クリニックで起こった筋弛緩剤による連続殺人事件の容疑者となった守(もり)氏とその弁護団の団長阿部氏の手記。守氏の部分は拘留中そして裁判中に書かれた本人の日記です。本の構成として、いきなりこの守氏の日記からはじまります。人物関係とか事件の概要の説明もなく、やや支離滅裂で文章もあまり上手ではないのでわかりづらいのですが、”彼がやってない”という訴えは伝わってきます。そして警察、検察の横暴さもよくわかります。先日、狭山事件の本を読んだけどあれに勝るとも劣らない滅茶苦茶な取り調べです。逮捕により容疑者は最大20日間拘留できるのですが、守氏のケースはなんと5回も再逮捕し拘留期間を延長し連日の取り調べをしています。その内容も”お前がやったんだろ”、”嘘つくな”、”お前は殺人者だ、死刑だ”の連続。自白を強要するもので、およそ取り調べとは思えません。守氏の場合は逮捕された最初の二日で”やった”と自供してしまいます。しかし、これは弁護士もいない状態で強要されたもので、これを根拠に犯人と決め付けるのはかなり無理があります。
 後半の阿部氏の説明を読むとよくわかるのですが、そもそもこの事件は犯罪があったかもかなり怪しいものです。まず筋弛緩剤で人が殺せるのかというのがかなり怪しい。そして守氏が筋弛緩剤を被害者に投与した証拠も、殺人現場の目撃者も誰もいません。殺人の動機もまったくありません。殺されたとされているのは老人と子どもがほとんどで急患で運ばれた人がほとんど。本著では断定はしていませんが、この病院の医療ミスを全部守氏にひっかぶせてしまったというのが真相ではないでしょうか。殺人者がいなくても殺人事件ができてしまうとは恐ろしいことです。
 この事件は発生した当時は大騒ぎでした。この本が出たのはその事件発生から約1年後です。その後いったいどうなったのか調べてみたところ、2004年の3月に地裁で判決が出ていました。なんと無期懲役です。そして現在は控訴して高裁で裁判が行われています。狭山事件のときもそうでしたが、冤罪の可能性が高い凶悪犯罪は無期懲役でごまかすのが裁判所です。一回有罪の判決が出るとそれを覆すのが至難の業なのが日本の裁判です。ほぼ同じ時期に被害者の守氏が殺したとされた女の子を医療ミスとして病院に対して起こしていた裁判が1億円の和解金で病院とその両親が和解していました。もし、守氏が殺していたならそもそもこんな裁判が起きて和解するはずもありません。本事件も私は99.9%冤罪だと思います。この事件は本人にとっても悲劇ですが、被害者も家族も彼女にとっても悲劇。彼女は今も守氏の出獄を待っています。
 守氏自体はちょっとお人好しすぎる感じもありますが、好青年です。お父さんは警察官。同じ病院のナースの彼女もいて普通のどこにでもいる青年です。それが突然連続殺人鬼になってしまうのです。私がこの本読んだところ、守氏には過失と言えるようなところがほとんどありません。普通、冤罪の被害者でもどこかしら問題があるものですがそれがほとんどありません。強いて言えばお人好しでお気楽すぎたことぐらいでしょうか。父親が警察官だったことから、警察を信用しすぎたことぐらい。警察と司法がきちんと機能していない日本では誰でもこんな状況になってしまうことがあるのです。あなたもいつ冤罪で逮捕されるかわかりません。そのときはどんなにつらい取り調べでも”やった”と言わないことです!
 最後に、心配なのはこの冤罪事件があまり盛り上がっていないように見えることです。このままでは高裁でも無期懲役になってしまうでしょう。もっともっとこの冤罪事件は知られなければなりません。今ならまだ間に合います。
(★★★★)

【囚われのイラク】 安田 純平
 イラクで拘束された安田氏の拘束解放後の著作。安田氏は拘束前にも何度かイラク入りしていてその話が半分以上。何箇所かに取材拠点となるイラク人脈ができていて戦争前、そして戦争がはじまって彼らはどうなったかというのを定点取材しています。さすがジャーナリスト。拘束部分については渡部さんも同じ状況ですが比較すると視点が違っていておもしろいです。
 彼が勤めていた信濃毎日を退職する経緯も出ています。会社というのはデカクなればなるだけ官僚化し、外面を気にするようになります。新聞社も例外ではない。
 アンマンでクラスターの子弾を破裂させてしまった五味記者はとも安田氏は知り合いで、あの事件についても書いてあります。思い起こせばあの事件も変な方向にマスコミ報道は誘導されていました。五味記者が非難されるのは致し方ないですが、それだけに終始して終わってしまいました。それまで一般的ではなかったクラスター爆弾というものが日本でも広く知られることになったのですが、この醜悪な兵器自体は非難されることなく五味記者の記者生命を抹殺しただけでこの事件は終わってしまいました。兵器に人道的もなにもないとも言えますが、特に非人道的と言われる、生物化学兵器、核兵器、対人地雷は国際的に使わないという合意が一応できています。ここに加える筆頭と言ってもよいのがクラスター爆弾と劣化ウラン弾、デイジーカッターと呼ばれる気化爆弾です。しかし、アメリカは今度のイラク戦争でこの3つの兵器をジャンジャン使いました。自衛隊もクラスターを持っていることが明らかになりました。大量破壊兵器を使っているのはいったいどっちなのでしょう。
 安田氏はまたイラクに行って継続取材をするつもりのようですが、拘束事件の渦中の人物となってしまったため講演依頼が殺到。しばらくイラクには行けなそうらしいです。読者としてはその後イラクの人達がどうなってるのか気になるのですが。
(★★★★)

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